人と同じことはしたくない

落合 僕、昔からこういう性格だと思われてそうですけど、全然違うんですよ。

長田 新聞記者をやっていたときに、どんどん変貌していったってことですか。

落合 そうですね。大学卒業後に新聞記者になって、最初の2年間は広島県福山市が赴任先だったんです。で、新聞記者になると記者クラブというものに入って、地元の警察署の一室に日々出入りしていたんです。

 記者クラブには、他の会社の記者もいるんですね。僕は当時、読売新聞に勤めていたんですけど、朝日、毎日、産経、地元の中国新聞、隣の山陽新聞……。いろんな記者がいるんですよ。そうするとお昼に「じゃあそろそろ、メシ食いに行こうか」って、そのとき記者クラブの部屋にいた人たちみんなで、ゾロゾローっと食いに行くんですよ。他社も含めて。

 そういう生活をずーっと続けていて、それが当たり前だったんですけど、記者になって2年目。ある誘拐殺人事件の際に、僕が当時いた読売新聞が、記者クラブ除名という処分になったんですね。要するに、記者クラブ出入り禁止です。

 そこからたった一人になったので、一人で行動するようになったんです。それまでは普通に群れてメシを食ってたし、取材にも、みんなでゾロゾロゾロゾロ行ってたんですよ。今だったら気持ち悪くて仕方ないんですけどね。

 そのへんからなんです、変わっていったのは。もう、一人でやるしかない。いろいろありましたけど、とにかく人と一緒に行動するのがすごく苦手になったんです。今の僕は、みんなと一緒に歩けないんですよね。

長田 アハハハハ!

落合 スタスタスターっと行っちゃうんですよ。目的地、わかってるじゃないですか。みんなはダラダラおしゃべりしながら行くけど、自分はもう、とにかく行く! みたいな。

 同じようなエピソードで言うと、5年前の台湾旅行。うちの家族と、あと4家族くらいで行ったんですけど、夜の屋台をまわるときも、僕だけスタスタスターっと行っちゃって。みんなはずっと後ろを歩いたり、僕を探したりしてて……。後でさんざん妻に怒られました。

長田 やっぱ怒られるんだ(笑)。

落合 みんなと行動しないで自分でやる。仕事もそうですね、みんながやるんなら僕はしない。とにかく人と違うことをしたい。今、この店も、ほかの書店でたくさん売れてる本は仕入れません。だってそんなに売れてるんだったら、うちで売る必要ないじゃんって思うわけですよ。

長田 いいですねぇー、そういうの。

1階のレジ奥に座る落合さん

落合 ただね、自分の不得意なことは抱え込まないようにしてるんですよ。得意な人がいるんだったら、僕はその人に任せます。たとえば昨日もここでイベントをやったとき、オンライン同時配信の作業は、別の人にやってもらいました。僕、オンラインとかはまったく、ちんぷんかんぷんなんです。で、自分のできることをする。新聞記者時代でもそうでしたね。取材のチームを組むときは、それぞれの人に本人の得意なものを任せてました。

 自分のキャパシティは、ある程度わかってるんです。これには手を出さないでおこう、これに手を出しちゃうと、こっちができなくなっちゃう、みたいなことはなんとなく感覚としてわかるから、無理やりなんでもやろうとしないんですよ。

長田 僕の勝手なイメージでは、落合さんは結構自分でなんでもできるようになってしまう人なのかなと思ってました。僕もできることと、できないことを完全に分けてやってるから、勝手に勇気が出ましたね。「仲間だー!」って(笑)。

落合 勇気ですか(笑)。僕は本屋なんですけど、本屋以外でもやりたいことがいくつかあるんです。まずやっぱり子育て。まあ当たり前のことなんですけど。8歳の子供のお迎えは僕がやってます。ですから夕方も17時とか17時半に店を閉めて迎えに行きます。

 で、午前中に何をやってるかというと、妻がだいたい朝7時に家を出て、まだ子供がいるので、たとえば子供の宿題を見たり洗い物をやったりとか、洗濯物を干したり畳んだりということをしてるんです。

 だからうちの店は昼の12時から夕方くらいまでしかやってません。本当は、午前中の10時から夜の20時まで開店するというやり方も、本屋としてはあるんです。でもそれだと、今やってることができなくなっちゃう。自分のできないことは物理的にも無理なんで、やらないようにしています。

店内の本を眺める長田さん
対談後に4冊ほど購入しました

落合 あと僕、週に3回は走るようにしてて、週末はランニングの大会とかにも出てます。それも僕にとっては楽しみなんですよ。これは自慢っぽく聞こえたらごめんなさい、先週の日曜日、僕、大会で100キロ走ったんですよ。

長田 ひゃっきろ……。

落合 100キロあって、一応13時間で完走したんです。3年ぶり4回目の完走でした。そういった「走る」ということも午前中にやっているんですよ。

 だから本屋なんだけどランナーでもあり、家に帰れば父でもあり、夫でもある。いろんなことをやりたいんです。

長田 やりたいことにきちんとフォーカスして、取捨選択されてるんですね。

落合 ええ、そこはやっぱり取捨選択しないとできないので。

長田 僕は絵本を描くことにおいては取捨選択できなくて、やりたいことがワーッてあって、「ああどうしよう」ってなります(笑)。だからだいたい7、8作品を同時に進めています。

 僕も3歳の息子がいて、保育園のお迎えの役が17時半にあるんです。さっき落合さんが仰ったみたいに、やりたいことに費やせる時間って限られてるじゃないですか。そういうことは理屈ではわかるのに、僕はやりたいことをどんどん増やしていって、一つにかかる作業が実質的に減っていくんですよ。「やりたいこと、整理しなきゃなー」って思いながら増えるばっかりで。

 絵本を描く仕事を始めて6年くらいになりますけど、一度も整理できたことがないんですよね。あれやこれやと7、8作品をあわただしく移動して、なんとかやっている感じです。

 でも、なぜそうするかと問われると、楽しさを維持するためでしょうね。僕、わりとすぐ飽きるので、いろんなタイプの作品があると、それだけ楽しい状態が続きやすい。そのかわり、効率は非常に悪いですが。

落合 ある意味、混沌とした状態を作っておくという……。ああ、わかります、わかります、そういう感じも。

誰がやってもいい

長田 僕ね、子供目線で絵本を描くという気がないんですよね。子供目線ってなんでしょうって感じです。絵本って、子供が多く読むとか、大人が子供に読み聞かせるってシチュエーションはあるでしょうけど、そういうこととは関係なく、作品として、いろんなタイプがあっていいと思うんです。

「これは何歳に向けた絵本です」って、一体なんなんですかね?

落合 ハハハハハ!

長田 たとえば「5歳に向けて」とか言っても……、おもちゃ業界であれば「5歳が喜ぶもの」っていうのを大人が作って与えてるんでしょうけど、絵本という創作物には、対象年齢なんてないよって思います。

 本当にいろんな絵本があったらいいと思うんですよ。大袈裟に言うと、昨日まで漁師をやってた人が描いた絵本とかね。それくらい広くあってほしいし、僕もそういうものを読みたい。落合さんもね、今度は「新聞記者、絵本をかく」ってことですよ(笑)。

落合 ハハハ!

長田 そりゃ、僕みたいにたくさん出版したり、長く続けるっていうのは、誰もがやることでもないと思いますよ。でも絵本という表現は、僕個人の考え方でいえば、すごく軽妙なもので、誰もができるものなんです。それこそ絵とか文との関わり方って、いろんなやり方があるから、本当に多くの人が参戦するとおもしろくなるだろうなと思います。

落合 今、長田さんが仰った話をこっちに引きつけて言うとね。誰でも本屋になれるんですよ。

長田 そうなんですか?

落合 店のスケールとかは、まちまちです。自宅の一室を本屋にしてもいいし、どんな本を並べるのかも自由。一人ひとり読書経験も違うし、売りたい本も違うので、10人本屋を開いたら10人分、違う本屋ができるはずなんですよ。

 ここは僕の頭のなかを、本屋という形で表現というか、陳列しているところですが、もし長田さんが本屋をやったら、たぶんまったく違った本が並んでくる。昔あった駄菓子屋みたいな感じで本屋がちょこちょこあると、その街はおもしろいんじゃないかなと思ってます。

長田 それは確かにおもしろいですね。店先で子供がアイスを食べてるところもあれば、哲学書ばっかり置いてるところもあったりしてね。

落合 まあ商売として続けていくのは、また話は別なんですけども……。たぶん誰でも、本屋に関わることができるんじゃないかな。読書家でもないし、ずっと本屋をやりたいと思っていたわけじゃない僕が、今、本屋をやってるので。

 最近だと神保町の「パサージュ」というものが人気ですよね。いろんな有名な方や一般の方が自分の棚をもつみたいなことで。

※パサージュ:正式名は「PASSAGE by ALL REVIEWS」。東京・神保町の古書店街にある共同書店。月に決まった額を支払うことで、店内に自分の「棚」を確保でき、そこで自分の選んだ本(古書やZINなど)を売ることが可能。詳細は公式ホームページ https://passage.allreviews.jp をご参照ください。

落合 それから、うちはここ(Readin’Writin’ BOOK STOREの2階)で「お座敷一箱古本市」というイベントをやってるんです。個人が自分の蔵書を持ってきて売るというもので、毎月第一土曜日に開催しています。結構、やりたい人がたくさんいるんですよ。

長田 本屋のなかで本屋を開くんですね!

※お座敷一箱古本市:お気に入りの本をミカン箱ほどの一箱に詰めて持ち寄り、一日だけの「本屋さん」になれるイベント。Readin’Writin’ BOOK STOREへの出店料は500円。売れた本の代金は全額、出店者に入る仕組みです。

落合 ちなみにそこ(長田さんの背後)はレンタル棚なんです。棚を月単位で借りていただいて、借りた人が自分で屋号を作って本を置いてます。

写真左側がレンタル棚
1ヶ月3000円で2枠借りることができ、
売れた本の代金は全額出店者に入る仕組みです

落合 こんなふうに自分の棚をもちたい、見せたいって人は結構います。

長田 これはいいですねぇ。いやあ、パッと見ただけでも初めて見る本ばっかりだな。こういうことをしてる人のなかに、ゆくゆくは自分のお店をもつ人もいるかもしれないですね。

落合 実際そういう人はいます。

長田 本屋さんの中から本屋さんができて広がっていく……。とても素敵なことですね。

(了)